今日は先日孫のために準備した餅踏み用の大きな鏡餅を冷凍すべく切り分けました。当日、息子たちに持たせようとも思ったのですが、柔らかすぎて包丁では切りにくかったので、少し固くなってから切って分けましょうねと言っていたら、あとから友人が言うには、そういったお祝いの餅を刃物で切ってしまうのは縁起が悪いから、柔らかいうちに糸で切るものなのだそうで、これは失敗でしたが、もうその時はすでに固くなっていたので仕方がありません。
昔、年の瀬になると、お正月用のお餅を搗く人手と臼が来てくれるため、回ってくる時分までにはもち米をいい頃合に蒸し上げておかなければならず、主婦はなかなかたいへんだったようですが、餅を搗く調子のいい音が聞こえると、もう正月だという、浮き浮きした気分になったものでした。丸餅に丸めたりあんころ餅にしたりもしましたが、おおかたはもろぶたに直接取って平たく伸した「伸し餅」にして、2~3日後に二人がかりで切り分け、それをまたもろぶたにきれいに並べ、廊下などの涼しい所に重ねておけば、正月を過ぎても無事だったものです。しかし最近は家が昔に比べてよほど暖かいのか、油断すると3日ぐらいでカビが発生してしまいますから、切ったらすぐに冷凍保存です。それにしても餅踏みの大きな餅を糸で切るというのもなかなか簡単ではなさそうです。
両親が鹿児島出身なので、我が家にはしばしば名物の灰汁巻きが送られてきました。もち米を竹の皮に包み、保存のために灰汁汁で炊き上げた灰汁巻きは、包丁だとべっとりと張り付いて上手く切れないため、木綿糸を使って切ります。母が裁縫箱から木綿糸を取り出して、その片方を口にくわえ、左手で竹の皮を半分むいた灰汁巻きを持ち、右手で灰汁巻きにくるっと糸を一巻きしてスッと向こう側に引っ張るときれいに切れます。砂糖を混ぜた黄な粉が入った器にそれを落とし入れ、黄な粉を全体にまぶせば、ベタベタせずにとても食べやすくなります。糸で切るという発想も驚きでしたが、糸を口にくわえるしぐさが何とも言えずステキで、小さい私たちは目を丸くして見ていたものでした。
そういえばろくろで器を作るときにも、最後は高台のところに糸を巻きつけ、えいやっと引っ張ると見事に粘土が切れるので、あとは両手の指でそっと持ち上げて、板などに取ります。茶碗などはその後、底を削って仕上げるので糸の跡は残りませんが、高台をそのままに焼いてしまう壷などはろくろの回転に合わせて撚りの強い糸が回りながら粘土を切った跡が残り、大変美しい模様のようになります。やきもの公園入り口などにある壁には、その糸切りからヒントを得たデザインの丸いタイルが使われています。
糸で切る・・・素晴らしい発想ですね。